医学部の入学試験では、ほとんどの大学で小論文の試験が課されます。医学部の小論文の対策を始める受験生に必要な基礎的な対策をまとめました。小論文の対策のためにまず最初に読んでほしい内容です。
1.小論文で問われることは
(1)事前の準備
志望する大学のアドミッションポリシーや出題目的などを把握しておく
どのような学生を大学が求めているのか、どのような素質を小論文によって見ようとしているのかは大学ごとに異なります。可能な限り把握しておきましょう。
自分の得意分野や解答能力を把握しておく
実際に試験では、自分の得意分野で解答ができるようにし、決められた時間、文字数の条件の中で解答ができるように解答能力も把握しておかなければなりません。
(2)何を表現しなければならないか
こうした事前準備のもとで、どのようなことを表現しなければならないか改めて確認しておきましょう。以下の4項目はチェックリストとして便宜的に挙げたものです。実際には各個人、志望校に合わせて考えると良いでしょう。
意欲
- 医学部へ入る、医師になるという熱意が感じられるか。
- そのための努力がみられるか。
(例えば、なるべく医学や医療に関する論点で解答をする。医学や医療、志望するに関するキーワードを良く理解していることを表現する。)
知識
- 医学部へ入る、医師になるための知識があるか。
(例えば、簡単な用語ばかり使用するのではなく、得意分野で知識を持っていることを表現する。)
コミュニケーション能力
- 出題者の意図を理解しているか。
- 設問に対して的確に回答しているか。
- 文章で意思を伝える能力があるか。
(例えば、出題者の質問や意図に率直に答える解答にする。出題者・採点者に配慮して一貫した分かりやすい表現にする。文体や用語の使い方を整理する。)
人間性
- 一緒に学びたい、仕事をしたいと思える人物か。
(例えば、様々な立場の人々に配慮した議論を展開する。嫌味な表現は避ける。前向きで明るい結論を心がける。)
2.小論文の解答の具体的な方法
(1)試験開始直後にすること
- 試験が始まったらまず問題用紙と解答用紙は正しく配付されているかを確認しましょう。問題用紙と解答用紙は何枚、何ページあるかも確認しましょう。
- 次に設問はどこに書かれていて、何問で、本文・資料の分量を確認しましょう。時間配分に関わってきます。
- 本文・資料には大まかにどのようなことが書かれているかを確認しましょう。本文・資料を読み始める最初に「出典」を確認して、そのタイトルがヒントになるかを検討しましょう。
(2)形式ごとの解答の組み立て方
解答を考える際に、まず必要な形式を考えましょう。質問に直接的に答えることが求められます。問題の形式ごとに解説します。
解答の組み立てを考える際の原則は、主張は最初に書くことです。
(i)短い質問や指示に答える形式
短い質問や指示に答える出題形式の場合は、問われている内容を要素ごとに分けて、要素ごとに段落構成すると採点者に対して的確に問いに答えていることをアピールすることができます。
(過去問例1)
研究におけるデータ捏造事件が後を絶たない。本来捏造という不正行為はないという前提で行なわれるのが研究ではあるが、そのような常識を覆すような事件が最近頻繁に報道されている。しかし、より身近な例で考えるならば、学校での宿題・課題レポートに関わる不正行為、すなわちコピーや模倣なども日常茶飯事に見られており、その根本は同じような背景から起きているとも考えられる。このような現実に鑑みて、なぜこのような事象が起こるのか、その背景分析と対策方法について600字以内で述べなさい。
[2014年 日本医科大学(改)]
(過去問例2)
わが国では高齢化が急速に進み、解決すべき様々な社会的問題が生じている。その中から重要と思う課題を選び、その課題に着目した理由と解決策について1000字以内でまとめなさい。
[2011年 横浜市立大学(改)]
解答の書き出しと段落構成の例
(過去問例1)
①研究においてデータ捏造・・・が起こる背景には、・・・という背景がある。
②こうした問題の対策は・・・・
(過去問例2)
①高齢化社会で生じる様々な社会的問題の中で・・・が最も重要な課題である。
②この課題に着目した理由は・・・だからである。
③この課題の解決策は・・・
このように冒頭に、問いに直接答える形式で主張を明確にして、続けて主張の根拠を書いていきます。
(ii)課題文についての設問に答える形式
長い課題文についての設問に答える出題形式の場合も、同じです。問われている内容を要素ごとに分けて、要素ごとに段落構成しますが、多くの場合、冒頭の段落に本文の要約が入ります。
(過去問例3)
次の文章を読んで、問いに答えなさい。
(本文略)
出典:稲盛和夫、梅原猛『近代文明はなぜ限界なのか』
問 本文の主旨をふまえて、あなたが考える理想的な日本人の将来像について600字以内で述べなさい。
[2015年 北里大学(改)]
解答の書き出しと段落構成の例
(過去問例3)
①・・・は本文の中で(要約が入る)・・・と主張している。
②これに対して理想的な日本人の将来像とは・・・
課題文がある場合は、特別な指示がない限りは、最初に筆者の主張を前提として最初に書きましょう。
筆者の意見を肯定する場合には、必ず別の視点や意見を加えましょう。筆者の意見をなぞっただけの内容は良くありません。
(iii)単語など短い言葉の題材について書く形式
単語やテーマのみが示されている場合は、最初に主張を書くと唐突になる場合があるため、採点者とテーマについての認識を一致させるために前置きをいれたり、分かりやすいように用語の説明をしたりする導入が必要な場合があります。その場合は導入に続けて主張を書きます。
主張については、必ずしも「○○に賛成」「○○に反対」という形である必要はありません。社会全体に対して有益な内容であることが大切です。
(過去問例4)
「高齢化社会における医師の役割」
[2015年 久留米大学]
(過去問例5)
尊厳死について
[2016年 関西医科大学]
解答の書き出しと段落構成の例
(過去問例4)
①日本では・・・高齢化が進行した・・・。この中で最も課題となることは・・・。(現状認識を示す)
②このような中で医師の役割は・・・(主張)
(過去問例5)
①医療技術が進歩し、終末医療において・・・。・・・を尊厳死と呼ぶ。(現状認識と定義を示す)
②尊厳死を考える上で重要なことは・・・・(主張)
過去問例4のような場合は解答すべき内容が比較的明確です。しかし、過去問例5のような場合は、解答すべき内容を自ら構成しなければなりません。
また、「尊厳死」がテーマになっている場合は、最低でも「延命治療」や「リビングウィル」など関係の深いキーワードを使用して解答するようにしましょう。
(iv)写真、絵、図や表についての質問に答える形式
写真や絵などの抽象的な資料が与えられて、それについて自由に解答することが求められている場合は、思うままに書いてよいでしょう。書く内容が浮かばない場合は、書きたいこと=自分の得意なテーマ、書かなければならないこと=医療や医学に関係するテーマから結論を最初に考え、それに合わせて資料の解釈を考えるのもよいでしょう。また、前向きで明るい内容になるようにしましょう。
(過去問例6)
キングス・クロス駅の写真です。あなたの感じるところを800字以内で述べなさい。
[2015年 順天堂大学]
解答の書き出しと段落構成の例
(過去問例6)
①この絵には、・・・が描かれている。(読みとった内容を示す。)
②・・・は現代の医療で・・・。(医療の話題につなげる。)
②現代の医療では・・・
グラフなどの図や表の読み取りの場合は、読みとった内容を概括的な内容、客観的な内容を先に、考察などの主観的な内容を後にまとめていきましょう。
(v)課題文を要約する形式
現代文の要約問題と同じように考えてよいですが、要約が実用的に使用されるシーンを考えると、筆者の立場になってまとめるよりも、第三者の立場から筆者が書いた内容や筆者の主張をまとめるのがよいでしょう。誰にとっても読みやすくなるからです。最初に見出しに近い形でテーマになっている内容が端的に示されているとよいです。
解答の書き出しの例
・・・(本文のテーマ)について、・・・と筆者は述べている。・・・
「・・・と述べている」や「・・・を批判している」「・・・と強調している」「・・・とした」などの表現を使いましょう。
3.小論文のチェックポイント
(1)横書きの注意点
大学入試の小論文の場合は、横書きで解答する場合が多いです。横書きの場合も原稿用紙の使い方のルールは大きく変わりません。
横書きの場合、数字を使用する場合は、「123・・・」のように算用数字を用います。アルファベットの小文字と数字は1マスに2文字記入します。
M | ed | ic | al |
20 | 16 | 年 |
(2)常体(である体)で書く
試験場で解答する小論文の場合は、手紙を書くなどの特別な指示がない限りは、常体(である体)で解答します。
(3)「私は」「~思う」「~考える」は原則使わない
小論文で表現する意見は客観的な立場からも正しいといえるものでなければなりません。主観的な表現は避けましょう。
「私は」「~思う」「~考える」はなるべく使わないようにしましょう。
ただし、「筆者の意見に対してあなたの意見を・・・」や「あなたの体験を挙げて・・・」のような場合は、「私は・・・思う。」のように表現しても差し支えありません。
(4)一貫した主張を
解答の途中で論旨が変わったり、主張が後退したりすることは避けましょう。最初から最後まで展開が分かりやすくなるように工夫し、一貫した主張をしましょう。
4.医学部の小論文のための用語対策
事前に対策する用語は、①基礎的な医療のキーワードでその用語に関する論点が出題されやすいもの、②高校までの教育課程でも登場する医療に関する知識として再確認してほしいもの、③ここ1~2年で時事の用語として特に注目されているものに限りましょう。
用語の定義をそのまま覚えておいても、もう一度関係書籍やインターネットを使って再確認しても良いと思います。難しい専門用語よりも、『現代社会』などの教科書レベルの基礎的な用語から押さえていきましょう。
たくさんの用語を覚えようとするよりも、一つ一つの言葉を的確に使えるようにすることや自分の得意な論点で文章を書けるように対策をしておくことが重要です。自分の得意分野のキーワードも準備しておきましょう。
小論塾では、志望校が決まっている受験生に対しては4回、併願する受験生に対しては6回のコースで小論文の添削指導を行っています。実際に解答を書くだけでなく、用語の解説なども行っています。小論文、2次試験の対策は万全に行っておきましょう。